OHAT(オーハット)の活用で多職種連携の推進

~口腔内の状態を誰でもチェックできるツールの紹介~

 近年、医療の質や安全性の向上、高度化・複雑化に伴う業務の増大に対応するため、多種多様なスタッフがおのおのの高い専門性を前提とし、目的と情報を共有して業務を分担するとともに互いに連携・補完しあい、患者の状況に対応した医療を提供する「チーム医療」が実践されるようになりました。

 その中で、歯科の役割の重要性が認識されるようになっています。

 在宅医療においても、在宅介護においても、医療を中心とするチームが形成されてきており、さらに今後、在宅での高度医療・緩和ケア・看取りが推進され、その中で在宅歯科医療を行うには、多くの職種とも連携を取りながら進めていかなければならないところです。

 岐阜県歯科医師会においても、かねてより多職種と連携を推進してまいりましたが、現状では多職種との連携・協働の流れが構築・周知されているとは言い難い状況です。連携・協働するにあたっては、お互いの専門性を理解・尊重し、情報を共有し、役割を分担して、それぞれの職種がその役割を果たしていくことが重要と考えています。

 また、高齢者、認知症、周術期、障がい児(者)、がん治療、フレイルの予防・改善など多くの病態や状況において、口腔ケアが患者の生活の質(QOL)を向上させることが認められるようになってきた事からも分かるように、口腔内の状況を適切に評価し対応することが口腔ケアの重要なポイントとなります。

 岐阜県歯科医師会では、平成27年度より「歯科的観点における多職種人材育成事業」(岐阜県委託事業)に取り組んでおり、他の職種にも歯科治療や口腔疾患を認識してもらい、適正に口腔アセスメントを実施し、歯科治療につなげてもらうための連携のツールとしてOHATの活用を推進しています。

OHATとは

 OHAT(Oral Health Assessment Tool)は、Dr.Chalmersらによって作成され、日本では松尾浩一郎・東京医科歯科大学教授らによって日本語版に翻訳され紹介された口腔アセスメント用の評価用紙です。

 「チーム医療」に従事する担当者間の評価のバラつきを低減し、標準化された質の高い口腔ケアの提供に役立つツールです。岐阜県歯科医師会では、松尾教授の許可と指導の下、若干の改定を加え岐阜県版を作成し、医療従事者の皆様にご提供させていただきます。

東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野「OHATについて」

OHATのメリット

  1. 口腔アセスメントの均てん化
    OHATを使用することで、評価する担当者の職種などにかかわらず誰が評価しても、比較的均一な評価結果が得られやすくなります。
  2. 口腔ケアの個別化
    OHATで口腔内の問題を把握することで、適切なタイミングで歯科への依頼や、その患者の口腔の状態に合った標準化された口腔ケアプロトコルの運用がしやすくなります。

OHATシートの使い方

  1. OHATのポイント
    OHAT実施のタイミングは、口腔ケア開始直前、ケア開始後定期的(例えば週1回など)に実施し、スコアに応じて口腔ケアプロトコルも見直す。口腔ケアプロトコルは全身や口腔の状況に合わせて作成します。
  2. 口腔ケアのポイント
    ① リスク者(OHAT高得点者)には粘膜ケアの充実が効果的である。OHATの点数が高いほど誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。口内環境が安定するまで、通常の口腔ケアに加えて粘膜ケアを頻回に実施します。

    ② 口腔ケア中の誤嚥に注意します。リクライニング30度以上、頭部屈曲位(頸部前屈位)を厳守し、誤嚥リスクを低減する。誤嚥リスクが高い場合は、含嗽・注水洗浄の代わりに口腔用ウエットティッシュで清拭します。
  3. OHATの評価方法
    OHAT実施のタイミングは、口腔ケア開始直前、ケア開始後定期的(例えば週1回など)に実施してください。
    OHATの評価では、下の「OHATシート」で対象者の口腔内の状態を確認して、「歯科的観点における多職種連携シート」にその評価点を記入します。
    項目0=健全1=不良2=病的
     口唇

    正常、湿潤、ピンク

    乾燥、ひび割れ、口角の発赤

    腫瘍や腫瘤、赤色斑、白色斑、潰瘍性出血、口角からの出血、潰瘍
     舌

    正常、湿潤、ピンク

    不整、亀裂、発赤、舌苔付着

    赤色斑、白色斑、腫瘍、腫脹
     歯肉・粘膜

    正常、湿潤、ピンク、出血なし

    乾燥、光沢、粗造、発赤、部分的な(1-6歯分)腫脹、義歯下の一部潰瘍

    腫脹、出血(7歯分以上)、歯の動揺、潰瘍、白色斑、発赤、圧痛
     唾液

    湿潤、漿液性

    乾燥、べたつく粘膜、少量の唾液、口渇感若干あり

    赤く干涸びた状態、唾液はほぼなし、粘性の高い唾液、口渇感あり
     残存歯
      
      

    歯.歯根のう蝕または破折なし

    3本以下のう蝕、歯の破折、残根、咬耗

    4本以上のう蝕、歯の歯折、残根、非常に強い咬耗、義歯使用無しで3本以下の残存歯
     義歯
      
      

    正常、義歯、人工歯の歯折なし、普通に装着できる状態

    一部位の義歯、人工歯の歯折、毎日1-2時間の装着のみ可能

    二部以上の義歯、人工歯の歯折、義歯紛失、義歯不適合のため未装着、義歯接着剤が必要
     口腔清掃
       自立
       一部介助
       全介助

    口腔清掃状態良好、食渣、歯石、プラークなし

    一部位に食渣、歯石、プラークあり、若干口臭あり

    多くの部位に食渣、歯石、プラークあり、強い口臭あり
     歯痛

    疼痛を示す言動的、身体的な兆候なし

    疼痛を示す言動的な兆候あり:顔を引きつらせる、口唇を噛む、食事しない、攻撃的になる

    疼痛を示す身体的な兆候あり:頬、歯肉の腫脹、歯の歯折、潰瘍、歯肉舌腫瘍。言動的な兆候もあり

    日本語訳:東京医科歯科大学 松尾浩一郎、with permission by The lowa Geriatric Education Center available for download: https://www.ohcw-tmd.com/research/ohat.html

    本シートは東京医科歯科大学松尾浩一郎教授のご厚意により使用しています。
    公社)岐阜県歯科医師会

    上のシートの
    唇→舌→歯肉→頬粘膜→唾液→残存歯→義歯→口腔清掃状態→歯痛
    の順番に対象者の口腔内の状態を評価してください。

     唾液(口腔乾燥)では本人の訴えも聞いてください。歯痛では歯の痛みだけでなく、口腔内の痛みについても本人の訴えを聞いた上で、言動や表情をよく観察してください。
     「OHATシート」の写真と本人の口腔内をよく見比べ、説明をよく読んでいただき、下の「歯科的観点における多職種連携シート」に該当するスコアを記載してください。

    ※このホームページでは、上のチェックボックスに対象者の状態に適合する写真の横にチェックを入れると「印刷用のPDFを表示する」にその結果の数字が入力されるので印刷して、歯科診療所へ持参、もしくは訪問した歯科医師にお渡しください。

  4. 口腔ケアプランの作成
    下の「口腔ケアプロトコール!」を参考に、患者さんごとの口腔ケアプランを作成してください。
  5. 連携シートのスコアによって・・・
    連携シートでスコアが「歯科への受診を勧める」に該当する項目が一つでもあれば、患者・家族の同意のもと、かかりつけの歯科医院を受診、または、かかりつけの歯科医院に訪問診療を電話にて依頼してください。
    もし、かかりつけの歯科医院が訪問診療を行っていない場合は、岐阜県歯科医師会在宅歯科医療連携室にお電話ください。最寄りの訪問歯科診療がが対応可能な診療所をご紹介いたします。

「歯科治療必要性判断チャート」は、OHATが口腔内を直接観察することができる機会の多い職種(看護師、言語聴覚士など)を対象にしているのに対し、患者や家族の訴えを聞くことが多い職種(介護支援専門員など)を対象としたツールです。
患者・家族の訴える症状に該当する欄にチェックをし、診療申込書や訪問歯科診療申込書に複写の2枚目を添付して依頼してもらいます。

現在、岐阜県歯科医師会在宅歯科医療連携室整備事業(岐阜県委託事業)において、圏域ごとに5圏域での介護支援専門員への研修会と本チャートの配布を進めています。

 症 状
義歯(入れ歯) 歯がないのに入れ歯がない、使用していない
入れ歯を入れると痛くて噛めない
入れ歯が安定しない、落ちる、動く
入れ歯が欠けている、壊れている(割れている、バネが壊れている)
入れ歯のあたる歯茎、ほほ、舌などに傷がある
入れ歯が歯抜け状態(自分の歯が抜け欠けている)
う蝕 歯が痛い
しみる(熱いもの 冷たいもの)
歯に穴があいている、黒い(変色している)
被せものや詰め物が外れている
歯周病 歯茎から血が出る、腫れている
口臭が強い、ひどい
歯がぐらぐら、動く
口の中が赤くただれている、白い斑点がある
舌・唾液・粘膜 口が渇く、唾が出にくい
舌が痛い
口内炎がある
舌の上に苔のようなものがある(白い・黄色い・茶色い・黒い等)
口の中が汚い(磨き残しや食べ物が残っている)
摂食・嚥下
(飲み込む・むせ)
食べこぼしがある
お茶や汁物でむせることがある
食事後声がガラガラ声になる
食事時間が長くなった
痰が多くでる
食事の好みがかわった
体重が減少した
食事量が減った
よく熱を出す・誤嚥性肺炎を繰り返す

※上記の項目に該当する場合は歯科治療が必要と思われます。ご本人やご家族の意思を確認し、歯科医療機関へ情報提供をお願いします。
※現在かかりつけ歯科がない場合には、岐阜県歯科医師会在宅歯科医療連携室または、地域歯科医師会訪問診療窓口までお問い合わせ下さい。

これらのツールが必要な場合は、ダウンロードでも可能ですが、岐阜県歯科医師会までご連絡ください。

   OHATの評価方法、口腔ケアの実践方法について解説。

育成テキスト

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